ロスト・クロニクル~後編~

 それでも、ささやかな日常。

 アリアを含め、シェラに味方する者は壊したくなかった。


◇◆◇◆◇◆


「ご苦労だった」

「はい」

「疲れたか」

「とても……い、いえ! すみません」

「いや、構わない」

 不用意な発言であったが、シードは特にそれについて咎めることはしない。寧ろ、最高の「兄」を演じていたと褒め称える。シードの言葉にエイルは恐縮してしまったのか、何も言えなくなってしまう。

 そんなエイルの態度にシードは「これからも宜しく」という雰囲気で軽く肩を叩くと、遠くを見据える。

「隊長?」

「何も知らない方が……」

「シェラ様……でしょうか」

「そうだ」

「シェラ様は今、とても幸せでいらっしゃる。過去、何があったのか忘れ、これで良かったのかと……」

 世の中、思い出さないといけない事柄と、思い出さなくていい事柄が存在する。シェラの場合、身内を失ったという精神が崩壊しかけるほどの出来事を味わった。できるものなら夢の世界の中で生き続けてほしいが、夢は永遠に見続けることはできず、いつか覚めるもの。

 その時――

 シードは、溜息を付く。

「それまで君は、兄のままでいてほしい」

「はい」

「ただ――」

「ただ?」

「静寂も、永遠に続くか」

 シードが気に掛かっているのは、ミシェルの行動。今は静かにしているが、あのとんでもない性格の持ち主が黙っているわけがない。いつか行動に移し、シェラの精神を引っ掻き回すかもしれない――と、シードは考える。そして今度こそ、シェラは二度と立ち直れなくなってしまう。
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