ロスト・クロニクル~後編~

 本来エイルは親衛隊の一員だが、今はシェラの兄。

 だからミシェルが何か仕出かした時は、身を挺して守る。

 と、エイルに頼む。

 隊長と部下の関係なので「命令」というかたちを使えなくもないが、シートは敢て「お願い」を使う。重苦しい雰囲気と切実とも取れるシードの言動に、エイルはただ頭を垂れるしかできなかった。


◇◆◇◆◇◆


 エイルが魔法を披露する日、シェラは朝からご機嫌だった。兄と一緒にいられることは勿論、楽しみにしていた魔法を見ることができるからだ。いつもなら身支度に時間を掛けるシェラであったが、今日に限って身支度を急がせ、別の意味で侍女達は朝から慌ただしかった。

 シェラにあれこれと急がされたことに、侍女は疲労困憊状態。しかし、いつも無表情で椅子に腰掛けている姿を見続けていたので、このようにあらゆることに一喜一憂するシェラに喜びを隠し切れない。

 やっと、お元気に。

 喜びは噂話へ変化し、侍女達の間を駆け巡る。

 侍女達の話はおかしな方向へ盛り上がってしまうが、決して大事に発展することはない。これもアリアが事前に説明を行い、不用意に騒ぎ立ててはいけないと注意を行っていたからだ。

「お兄ちゃんは?」

「い、今は……」

 突如シェラに質問され、侍女達はあたふたしてしまう。シェラが言う「お兄ちゃん」というのがエイルと彼女達も知っているが、今エイルが何処で何をしているかまでは把握していない。侍女達は互いの顔を見合し、エイルの居場所を知っている者がいないか探り合う。

「確か……」

 ふと、一人の侍女が思い出す。

 次の瞬間、残りの侍女達が一斉に食い付いた。

「シード様とご一緒に……」

「シードと?」

 侍女の言葉にシェラは「二人でいっちゃったの?」と言いながら、詰め寄って来る。彼女にしてみればエイルと一緒に出掛けたかったのだろう、先にシードと出掛けてしまったことに不満そのもの。といって魔法を見ることを楽しみにしていたので、行かないとは言わない。
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