ロスト・クロニクル~後編~
「本当か?」
「お兄ちゃんとの約束だもの」
シェラにとって兄との約束は特別なものなのだろう、胸を張る。シェラが約束してくれたことに、これでアリアや侍女達の負担が減るだろうとエイルは考える。何だかんだでシェラの我儘は多くの者の負担となっており、特に世話をしている者達の気苦労は大きかった。
だからエイルは、シェラと約束する。
いい子にすることを――
「ねえ、お兄ちゃん」
「何?」
「お兄ちゃんも、約束守ってね」
「わかっているよ」
エイルはシェラにこれ以上ない爽やかな笑顔を作ると、近くで待機しているシードに視線を向ける。エイルの視線にシードは頷き返すと、魔法が使用できる場所――親衛隊の訓練所に向かった。
馬車の中でも、シェラはエイルに密着し続ける。片時も離れたくないのだろう、シェラの表情は幸せそのもの。一方密着し続けられているエイルは困惑し、魔法を使う時も密着されているのかと悩む。
「……シェラ」
「何かしら」
「魔法を使う時は……」
「一緒じゃ駄目?」
「魔法は危ないから、使う時は離れていてほしい。失敗してシェラが怪我をしたら、困るから」
「お兄ちゃんが、そう言うなら……」
「御免」
「本当はお兄ちゃんと一緒にいたいけど、側にいて魔法が見られない方が嫌だもの。だから、離れるわ」
しかし今は離れたくないらしく、シェラは抱き締めている腕に力を込めると、エイルは軽く呻いてしまう。
兄しかいないエイルにとって、当初シェラに対しての対応は困ってしまったが、徐々に慣れてきたらしく余裕が出て来る。一瞬、躊躇いを見せるも、エイルはシェラの頭に手を乗せると優しく撫でる。本当の兄妹同士ではないが、現在の光景は血の繋がった兄妹に等しい。