ロスト・クロニクル~後編~

「どんな魔法を見せてくれるの?」

「どういう魔法が、いいかな」

「綺麗な魔法がいいわ」

「綺麗か……」

「駄目?」

「考えてみる」

「わーい、楽しみ」

 早く魔法を見たいシェラは、早く馬車が到着するように御者を急がせようとするが、エイルはシェラの行動を制する。急がせれば危険が付き纏い、最悪二人が怪我をしてしまう。エイルの注意にシェラはシュンっとなってしまうが、怪我をしたくないので大人しく到着を待つ。

 だが、到着と同時に真っ先に馬車から飛び出したのはシェラで、予想の行動力にエイルを含め護衛に就いた親衛隊の面々を驚かす。特にシードはシェラが元気になってくれたことは嬉しいが、その反面複雑な心境だった。

「ねえ、早く」

「わ、わかった」

「約束通り、綺麗な魔法ね」

 シェラはエイルの約束を守り、魔法を使う時は安全な位置に離れ見学する。しかし好奇心が疼き出すのだろう、時折エイルに近付こうとするが「危ないです」と、シードに注意されてしまう。

「少し寒くなるけど、いいかな」

「大丈夫」

「なら、氷の魔法を――」

 エイルが使用しようとしている魔法は、本来攻撃に用いる魔法であったが、今日は特別に別の方法で用いる。

 歌うように呪文をつむぐと、魔法を発動する。

 刹那、氷の細かい粒が舞う。

「綺麗!」

「どうかな?」

「凄い」

「こういうことも可能だよ」

「見たい!」

 シェラに喜んでもらおうと、エイルはあれこれと工夫を凝らす。エイルが使う魔法は、基本のなる魔法を応用して使用する高度魔法。本来、使用するのは難しいとされる魔法だが、メルダースで基礎を叩きこまれ日々練習していたので、これくらいエイルにとっては朝飯前。
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