ロスト・クロニクル~後編~
第五章 分岐点

第一話 ざわめきと嫉妬


 ある日、事件が発生する。

 被害者はエイルで、加害者はミシェル。

 そう、ミシェルが我慢の限界に達してしまったのだ。

 その結果、ミシェルは積りに積もった感情を爆発させ、エイルに暴行を働く。それは立場を最大限に利用した、一方的なもの。魔法を使用すれば一撃でミシェルを撃退できるが、相手が相手だけにそれは不可能。

 幸い、ミシェルは魔法にも武芸にも長けていないので、命を奪われるまでにはいかなかった。それでも全身は打撲や裂傷が酷く、暴行を振るうミシェルを引き離すと急いでエイルを救う。

「大丈夫か」

「……はい」

「よく耐えた」

「耐えるくらいは、慣れています」

 エイルの話に、シードは苦笑しかできない。それでも部下がこのような仕打ちを受けることが許せなかったのだろう、まだ暴れ続けているミシェルを睨み付ける。しかし、ミシェルはシードの冷徹な睨みに気付いておらず「煩い」やら「離せ」など、大声で騒ぎ続けていた。

「手当をする」

「助かります」

「いや、構わない。しかし、この件で――」

「隊長?」

「後で話す」

 シードは周囲でアタフタしている侍女に、医師を呼ぶように告げる。シードの命令に侍女達は一斉に頷くと、医師を呼び向かう。命令後シードはエイルを連れ、自身が普段使用している部屋に連れて行く。その部屋にはリデルが待機しており、傷付いたエイルの姿に表情が歪む。

「隊長!」

「傷は浅い」

「それは、良かったです」

「まさか、このような行動を取るとは思わなかった。いや、あの方は想像の斜め上を行くから仕方ない」

 シードはエイルを椅子に座らせると、そう呟く。日頃、子供っぽい一面を見せ癇癪を起す。守護者であったルークを一方的に切り、他国で好き勝手に振る舞う。そして今、親衛隊の隊員に暴力を振るった。ルークがこの状況を知ったら間違いなく嘆き、母国へ報告している。
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