ロスト・クロニクル~後編~

 しかし、今ルークはいない。

 だから、好き勝手に振る舞う。

「一番の心配は、シェラ様だ」

「このことを知られましたら、今以上に嫌悪感を抱かれます。普通でしたら、理解しているはずですが……」

「こういってはなんだが、あの方はこのようなことに疎い。だからこそ、エイルに攻撃を行った」

 シードの見解に、リデルは嘆息する。

 シェラに嫌われたくないというのなら、彼女が毛嫌いすることは行ってはいけない。特に彼女は、エイルを兄として慕っている。そのエイルにあのような仕打ちをしたのだから、シェラのミシェルに対しての嫌悪感は増す。それどころか、近付いただけで悲鳴ものだろう。

 家族を殺され。

 今回は、兄と慕っているエイルを苛めた。

 どこまで行えば気が済むのだと、シードは嘆く。

「隊長」

「どうした」

「このとこは……」

「シェラ様か?」

「はい」

「勿論、このことは伝えない。伝えないが、これだけの大事だ……隠し通せるものではない」

 特に、話好きの侍女達が黙っていられるかどうか怪しい。今も話が広がっており、シェラの耳に届いている――と、シードは話す。それについてリデルも同意見らしく、頷き返す。

 案の定、シードの読みは正しかった。

 何とシェラが、やって来たのだ。

「お兄ちゃん!」

「ど、どうして」

「お兄ちゃんが、怪我したって」

「大丈夫だ」

「大丈夫って……」

 血を流しているエイルの姿に、シェラは泣きだしそうだった。眼元を涙で濡らしているシェラにエイルは泣いてはいけないと、頭を撫でてやる。だが、大好きな人が血を流していることに我慢できるほどシェラは強い人間ではないので、とうとう大粒の涙が頬を伝った。
< 205 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop