ロスト・クロニクル~後編~
シェラが急に泣き出したことに、エイルはあたふたしてしまう。目配せでリデルに助けを求めるが、今シェラはエイルに抱き付いているので、無理矢理引き剥がすわけにはいかなかった。
「本当に、大丈夫だよ」
「だって、血が出ているから……」
「今、医師が来る」
「いないわ」
「遅れているんだよ」
「それなら、いいけど……」
医師がなかなか来ないことに不安を覚えているのか、シェラは扉がある方向を一瞥する。するとタイミングを見計らったかのように、扉が控え目に叩かれる。その音にシェラの暗かった表情は一瞬にして明るくなり、エイルから離れるとシェラ自ら扉のもとへ向かい医師を出迎える。
一方、医師はシェラに出迎えられるとは思ってもみなかったのだろう、驚きのあまりに荷物を落としそうになってしまうが、何とか途中で抱きかかえる。どうしてシェラが出迎えるのは疑問を抱くも「まずは、怪我人を手当てしないといけない」と、自分自身に言い聞かす。
「怪我人は……」
「彼です」
「随分……」
それ以上の言葉は、続かなかった。
医師もエイルがどうして怪我を負ったのかある程度聞いているので、流石にそれ以上は口にできなかった。勿論、この医師もクローディア側の人間で味方。だからこそ、居た堪れない表情を見せる。
「早く」
「お、お待ち下さい」
「治る?」
「はい。ご安心下さい」
「それなら、いいけど……」
そう言われても納得できないのか、泣き止んでいたシェラは再び泣きだしそうになってしまう。見兼ねたエイルはシェラの頭を優しく撫でると、医師の言葉は間違っていないと伝える。
エイルに言われたことで納得できたのだろう、満面の笑みを浮かべながらその場にしゃがみ込む。どうやらエイルが手当てされている姿を見学したいのだろう、熱い視線を送り続ける。見ているシェラは何も思わないが、見られている医師にしてみたら堪ったものではない。