ロスト・クロニクル~後編~
「手当が終わったから、何処かへ行こう」
「いや、今日は……」
「駄目なの?」
「シェラ様。お怪我をなさっている方を無理させてはいけません。今無理をしましたら、怪我が悪化します」
「そうなの?」
シェラにしてみれば、エイルの手当てが終わったら何処かへ行こうと考えていた。彼女にとってはそれが気分転換に繋がると思っていたらしいが、今無理をしてしまえば傷が開いてしまうと、リデルは説明する。
リデルからの言葉にシェラはエイルから離れると、怪我が治ったら一緒に出掛けて欲しいとお願いする。
「約束する」
「本当!?」
「本当だ」
「なら、お兄ちゃん休んで」
兄との約束のシェラは満面の笑みを浮かべると、いそいそと部屋から出て行く。すると一人で出て行ってしまったことにリデルは慌てると、シードに一礼した後シェラの後と追う。
部屋の中に響く、扉が閉まる音。
それに合わせるかたちで、エイルが口を開いた。
「少し、疲れました」
「シェラ様か」
「……はい」
「過去を覚えていないのだから、仕方がない。しかし、今のように元気になられたのは喜ばしい。それと今は、怪我を治すのが先決だ。暫く自宅に戻っているといい、その方が寛げるだろう」
「宜しいのですか?」
「シェラ様には、私が言っておく」
シェラの兄と偽るようになってから、エイルは殆ど帰宅していない。遅い時刻「お兄ちゃんに会いたい」と言いシェラがやって来るので、城から離れられない状況にあった。しかし怪我を負っている今「静養中」という言葉を使えば、シェラに言い訳が立つとシードは話す。
シードの話にエイルは、脳裏に家族の顔が浮かぶ。その中に混じるのは、マナの顔。長い間会っていないので、マナは元気にやっているのだろうか――と、あれこれと心配してしまう。遠くを見据え何かを考えているエイルにシードはフッと笑うと、何を考えているのか尋ねる。