ロスト・クロニクル~後編~

「いや、いい」

「で、ですが……」

「自分で捜す」

「二人で捜した方が……」

「久し振りに、マナと話したいからね。で、父さんと兄さんには後で行くと伝えておいてほしい」

 エイルの頼みに、ジャネットは恭しく頭を垂れて見せる。「宜しく頼む」という言葉と共にエイルは踵を返すも、どこから捜せばいいか見当がつかない。マナが行きそうな場所は、何処か――と考えていると、いくつか候補を思い付く。その中で一番確立の高い、調理場へ向かった。

「エ、エイル様!?」

「お帰りでしたか」

 エイルの登場に、仕事をしていた料理人は一斉に仕事の手を止める。しかし彼等の態度を気にすることなく、エイルはマナを捜す。だが、この場所にもマナの姿は何処にもなかった。

「マナ、知っている?」

「先程までいました」

「先程?」

「はい。お茶の用意をしていました」

「ああ、なるほど」

 料理人の説明に、マナがどうして姿を消したのか理解する。久し振りに帰宅したエイルに喜んで貰おうと、彼女はお茶の用意をしに行った。そして今、彼女がいるのはエイルの私室だろう。そのように予想を付けたエイルは料理人に礼を言うと、いそいそと二階へ上がった。

 私室の扉を開くと、マナの背中を確認する。マナに会えたことが余程嬉しかったのだろう、エイルは表情を綻ばすと、彼女の名前を呼ぶ。突然自分の名前を呼ばれたことにマナは悲鳴に近い声音を発すると、誰が自分の名前を呼んだのか確認する為に、反射的に振り返った。

「エイル様!?」

「捜した」

「も、申し訳ありません」

「お茶、用意していたんだって」

 エイルの指摘にマナはコクコクと頷くと、熱々の紅茶を注ぎ入れたティーカップを差し出す。それを快く受け取ると寝台に腰を下ろし、淹れ立ての紅茶の香りを楽しむ。いつも飲み慣れた紅茶とすぐにわかったが、今日は何故か一段と香りが良く感じるのは気分の問題。
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