ロスト・クロニクル~後編~
「ど、どうでしょうか」
「美味しい」
「よかったです」
「マナって、先を読むのが上手いね」
「そ、そうでしょうか」
「こうやって、紅茶を用意してくれた」
「エイル様がお疲れと思いまして、ですのでお紅茶を用意しました。甘い物は、必要でしょうか」
「いや、これだけでいい」
疲れた時は甘い物が一番――と言われているが、エイルにしてみればこのままマナと話している方が何倍も楽しい。
エイルは手招きし、ここに腰掛けるように寝台を叩く。しかし、マナにしてみればエイルの隣に腰掛けるのは畏れ多く、それ以上に恥ずかしい。マナは頭を振り隣に腰掛けられないことを伝えると、断られたことに落胆したのだろう、ムスっとしながら音をたてながら紅茶を啜る。
「エ、エイル様」
「寂しい」
「ご、御免なさい」
「なら、隣に座って」
まさかこのような流れになるとは思ってもみなかったマナは、動揺を隠し切れない。エイルにしてみれば今度こそ了承してくれる確信があったらしく、悪戯っぽく笑っていた。マナは暫くオドオドとしていたが、彼女がエイルに敵うわけがなく、相手の顔を見ないように腰を下ろす。
「仕事、どう?」
「忙しいですが、充実しています」
「それを聞いて、安心した」
「エイル様は?」
「大変だね」
「そのお怪我も……」
「そんなところかな」
「怪我は、大丈夫なのでしょうか? 血が滲んでいるようですので、エイル様の身に何か……」
彼女の心配の仕方は、明らかに他のメイド達と明らかに違っていた。彼女達にとってエイルは人気の対象で、だからこそあれこれと気に掛ける。しかしマナの場合、過度のエイルの身を心配する。その純粋さ故に、エイルはメイドの中でマナのことが一番のお気に入り。