ロスト・クロニクル~後編~

「平気だよ」

「そう、仰いますが……」

「親衛隊の一員として、これくらい何でもない。それに父さんに鍛えられていた時は、もっと酷い」

「確か、以前……」

「あー、見ていたんだ。メルダースに入学する前、あのように鍛えられていた。兄さんが病弱だから、僕が親衛隊に入隊しないといけない。だから、父さんも立派にしようと鍛え……」

 しかし言葉は最後までつむがれることなく、途中で苦笑する。身内やメルダース関係者ならまだしも、マナはメイドであり他人。それでも思っていることを素直に言えるのは、マナが純粋だからだろう。それにマナに話すと、内に溜まったモヤモヤを吐き出すことができた。

「もし、親衛隊の入隊しなければ……」

「うん?」

「あっ! す、すみません」

「そうだね。もし……」

 一度言葉を止め、暫く考え込む。

「先生……かな」

「先生ですか」

「メルダースで多くを学んだから、それをメルダースに入学できない者に教えたい。だからといって、魔法は教えられない。魔法を勝手に教えたら、僕が学園長に殺されてしまうよ」

「殺される!?」

「これは、例えだよ。だけど、学園長ならやるかもしれない。不正や違反を一番嫌う方だから」

 それに、地獄耳。

 とは、流石に言えなかった。

「ご友人は?」

「ラルフ?」

「何と申しますか、エイル様に連れられお屋敷に来た時……その……皆が、色々と言っていまして……」

「あいつは、大丈夫だよ」

 そもそもラルフとは専攻が違うので、その点は問題ない。それに魔法を使えたとしても、ラルフは勝手に誰かに教えることはしない。メルダース時代、クリスティに散々絞られ恐怖を徹底的に植え付けられた。だからクリスティに逆らうことは、天地がひっくり返っても有り得ない。
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