ロスト・クロニクル~後編~
それに一生かけても支払いきれない、天文学的な数字の借金を抱えている。それを利子無しで、待ってくれているのだから、クリスティは天使のような心優しい人物――と、エイルは声音を震わせながら評する。
マナにしてみればエイルは、ちょっとやそっとでは動揺しない人物と考えていた。そのような人物がメルダースの学園長の話をしている時、顔面蒼白になっている。同時に数々の嫌な出来事が走馬灯のように思い出されたのだろう、ラルフ共々学園長の恐怖は身に染みている。
万が一、ラルフがおいたをした場合、魔法を直撃させる為に態々クローディアまで出向くだろう。
更に寒風吹きすさぶ中、木に吊るされる。
勿論、食事抜き。
いや、クリスティの性格を考えると、斜め上を行く「強烈なお仕置き」を考えるかもしれない。
エイルが語る数々のクリスティのぶっ飛んだ話にマナも恐怖心を抱いたらしく、先程からオドオドとし落ち着きがない。最初、心の片隅に「一度、メルダースの学園長に会ってみたい」気持ちが強かったが、今は恐怖の対象としか見られないらしく、その考えを改める。
「怖い人じゃないよ」
「で、ですが……」
「不真面目な生徒に対しては怖い」
「真面目な方には?」
「普通に、接してくれる」
「そ、そうですか」
「ただ、時折無理難題を言ってくる」
「エイル様にも、あったのですか?」
「あったよ。本当に大変というか、我ながらよくその難題を乗り切ったと思う。死ななくてよかった」
と、エイルはしみじみと語る。
メルダース時代、クリスティに認められようとがむしゃらに頑張った。頑張りすぎて倒れる寸前までいったが、頑張ったからこそ今に至る。しかし今同じことをやれといわれたら、なかなか難しい。それほどクリスティから課せられる無理難題は、乗り越えるだけ一苦労。
そこまで話し終えると、エイルは一気に紅茶を飲み干す。久し振りにマナに会え、マナと話すことができて楽しかったという。マナもエイルと話すことができ、楽しかったと話す。エイルはマナに向かい笑顔を浮かべると、空になったティーカップを渡すと寝台から腰を上げた。