ロスト・クロニクル~後編~

「紅茶、有難う」

「喜んで頂けて、良かったです」

「さて、報告へ行こうかな」

「旦那様ですか?」

「そう」

 エイルの返事に、マナの表情が曇る。

 物事を悪い方向へ捉えてしまったのだろう、エイルの身を心配するマナに、優しく声を掛ける。

「城であったことの報告だよ。何があったのか――そういう報告だから、マナが心配しなくていい」

「そ、そうですか」

「心配性」

「そ、そんなことは……」

「……有難う」

 オドオドとしているマナに、エイルは素直に感謝する。彼女がそのように思ってくれるからこそ、日々頑張っていられる。しかし、そのようなことを面と向かって言うのは恥ずかしいので、感謝の言葉のみ口にする。

 それでもエイルの言葉の意味を何となく理解したのだろう、マナの顔が微かに紅潮し、思わず俯いてしまう。そんな彼女にエイルは軽く手を上げて見せると、父親が待つ部屋へ急ぐ。

 エイルが立ち去った後、マナは盛大な溜息を付く。

 そして暫しの間、寝台から腰を上げられないでいた。




「とうとう、手を出したか」

「予想していたのですか?」

「あの方の性格を考えれば、そうなる」

「……そうですね」

「怪我は、平気なのか?」

「はい。医師の話では、特に問題ないと――ただ、無理をしてはいけないと、言われました」

「それならいい」

 いくら息子を厳しく育てているとはいえ、怪我を負ったら心配する。それも敵国の公子に一方的にやられたとなれば、これからのことを考えないといけない。シェラの回復を切っ掛けに、ますます増長するのは間違いない。こうなったら、敵国の者を上手く丸め込むか――と、フレイが口にする。
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