ロスト・クロニクル~後編~

「それは?」

「敵国にも、公子殿にいい印象を抱いていない者がいる……ということだ。あの性格では、仕方ない」

「確かに……」

「上手くいけば、やり易くなる」

「大人しくなる……と」

「多少な」

 ミシェルの性格を考えると、周囲にあれこれと言われて静かになるわけがない。煩いと言って、守護者のルークを切ったくらいなのだから。それでも少しだけ抑止力になればいいと、フレイは考える。

 現に城で働く者の多くが、ミシェルによってストレスを抱えている。流石に倒れる者はいないが、いつか倒れる者が生まれるだろう。それくらいミシェルの我儘は鬱陶しく、精神に悪い。

 ミシェルに対しうんざりしているエイルにフレイは苦笑すると、何かを思い出したのだろう、口を開く。

「ところで、シーナに会ったか?」

「いえ、まだ」

「心配していた」

「……すみません」

「私に、謝るな」

「そ、そうですね」

「お前の話から、大体はわかった。早く、シーナのもとへ行くといい。これ以上、心配させるな」

 フレイはひらひらと手を振り追い出すような素振りを見せるが、それは早く行けという意味。

 その言動にエイルは、深々と頭を垂れる。

 そして、踵を返し退室する。

 息子の姿に、フレイは優しく微笑む。

 しかし一瞬にして表情が強張り、これからについて考えていく。




「お帰り」

 久し振りに息子の顔を見ることができ、シーナは安堵する。しかし怪我を負っている姿に、顔を強張らせるも、そのことについて尋ねることはしない。息子がどのような仕事をしているのか理解し、それに親であっても口を出していい問題ではない。それでも、シーナの気持ちはエイルに伝わる。
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