ロスト・クロニクル~後編~
紅茶が、ティーカップに注がれる。
しかし普段淹れていないことが影響してか、ティーカップに並々と紅茶を注ぎ入れてしまう。
「ああ、母さん」
「あら、大変」
「お、落ち着いて」
「どうしましょう」
「後は、僕がやるよ」
「折角、貴方の為に――」
「いいから、母さんは座っていて」
エイルは母親を椅子に座らすと、今度は自分で紅茶を注ぎ入れる。こぼれないように、注ぎ入れたのはティーカップの七割程度。エイルはそれを母親に差し出すと、シーナが注ぎ入れたティーカップをこぼれないように持ち上げる。そして、口を付け胃袋に流し入れた。
「に、苦い」
「苦い?」
「母さん、飲んでみて」
息子に促されるかたちで、シーナは紅茶を一口。
次の瞬間、表情を歪めてしまう。
「ご、御免なさい」
「母さんは自分で淹れたと言ったけど、メイドに教えて貰わなかった? はじめてなんだし……」
「エイルに、喜んでもらおうと……」
「母さんが無理するよりいいよ」
しかし苦くても、飲めないわけではない。それに折角母親が淹れてくれた紅茶なので、残したら勿体ない。エイルは一気に紅茶を飲み干すと、今度は自らティーカップに注ぎ入れる。
「苦いんじゃ……」
「母さんの好意を無にできないし」
「優しいわね、本当に」
「昔から、色々と苦労を掛けて……メルダース時代も、そうかな。それに、今もこうやって怪我をしているから」
エイルの言葉に、シーナな頭を振る。メルダース時代、滅多に帰宅することはせず、手紙のやり取りばかり。そして卒業後、帰宅をすれば親衛隊として仕事が忙しい。寂しい気持ちはないわけではないが、立派になった息子は誇らしく、バゼラードの名に恥じない人物になってほしいと願う。