ロスト・クロニクル~後編~
「努力します」
「だけど、無理だけは……」
「わかっています」
これこそが、母親の心情。
流石に夫の前ではこのようなことは言えないので、二人っきりの時にシーナは息子に気持ちを伝える。
エイルも父親の前より、母親の前の方が落ち着ける。
それに普段隠していることも話すことができ、エイルは仕事での苦労話を淡々と語っていく。
ふと、思い出したのは自身の悪友。
そう、ラルフだ。
今水晶の発掘場所で大人しく仕事に従事しているが、クローディアに来た当初は、周囲に迷惑をかけた。
特にラルフを屋敷に連れて来た時は、まさに地獄絵図。メイド達の悲鳴が響き渡り、エイルは魔法を使う寸前までいった。なんとか一歩手前で踏み止まったが、屋敷ではなくメルダースであったら魔法の雨が降り注ぐ。それほどラルフの行動は、目に余るものがあった。
「あの時は、すみません」
「面白い方だったわ」
「流石の父さんも、困惑していた」
「今は、仕事をしているのでしょう?」
「はい。父さんの斡旋で……」
「しかし、どうしてなのかしら?」
「どうして?」
「あのメルダースを卒業した者が、あのように浮浪者になるなんて……何か、あったのかしら」
母親の質問に、エイルは即答できない。
母親のそうだが、大半の人間がメルダースは立派な学園で、卒業した者は優秀な者が多い――と、認識される。
しかしラルフは、メルダース開校以来の問題児。
またの名を「メルダースの破壊神」。
そして、天文学的な数字の借金を背負う。
そのような人物が、メルダースの卒業者。悪運が強いのか、それとも別の要因が関係しているのか、あのような人物が卒業者と言っても、信じる者は誰一人としていない。ラルフ一人でメルダースのイメージを一変させるだけの迫力を持ち、クリスティの頭痛の種である。