ロスト・クロニクル~後編~
日々、勉強に明け暮れていた。
だが、その生活の中にゆとりを齎したのはラルフ。
確かに〈メルダースの破壊神〉と言われ、あれこれと迷惑を被った。それは悪い部分であって、いい部分を上げれば「気分転換となった」となる。ラルフの馬鹿な行為がなかったら、期待とプレッシャーに押し潰されていた。そして、肉体だけではなく精神も害していた。
それでも、感謝しているとは言えない。
言ったら、ラルフが付け上がる。
「運命の相手かしら」
「ラルフ?」
「ええ」
「運命なのかな?」
母親の言葉に、エイルは首を傾げる。
そもそも「運命の相手」というのは、同性より異性に使う言葉だとエイルは考える。だからラルフ相手に「運命の相手」と言われても、いい気分はしない。それどころか、身震いを覚える。
「ラルフとの場合、悪友関係って思っているから。というか、腐れ縁かもしれないけど……」
「そういう関係って、大切よ」
「母さんの経験?」
それに対し、シーナは笑っているだけ。
貴族社会は、表面は華やかで優雅に見えるが、裏を見ればドロドロとしたモノが渦巻いている。
本音と建前の社会で、腹の探り合い。
その中で、一人だけでも信頼できる人物が見付けられたら、幸せ――と、シーナは言いたかったのだろう。
あのように見えて、ラルフは人を傷付ける嘘はつかない。困った嘘を付くが、それによって人生が大幅に狂うことはない。ただ、これによってクリスティに叱られたことは数知れず。
「女神様の導きね」
「かな?」
「そうよ」
人と人の繋がりは、かけがえのないもの――とは、よく言ったもの。現にエイルは、多くの人に支えられている。女神によって互いの運命を結び付けられ、今に至るのだろう。そのように考えると、女神に感謝しきれない。このように、個性豊かな面々に出会えたのだから。