ロスト・クロニクル~後編~

 ラルフの様子を見に行こうかな。

 と、思えてくる。

 真面目にやっているかどうかの監視――というわけではなく、元気でやっているか見たいのだ。

 あの場所には厳しい面々が揃っているので、不真面目なことはやっていないだろう。それにラルフが「女神様」と呼ぶマリサもいるので、彼女が日々葉っぱを掛ければ真面目に仕事を行う。

 これもまた、女神の導きか。

 実に運命は面白いと、エイルは考える。

「ところで、エイル」

「何?」

「メイドの一人と、仲がいいそうね」

「誰が、そんなことを――」

「リンダが言っていたわ」

 流石、メイド長というべきか。

 メイドの行動ひとつひとつを把握している。

 シーナが言うメイドというのは、勿論「マナ」のことを示す。マナとは話し易く、何より彼女は頑張り屋で自分を見ているかのようだ。それに気が利くし、帰宅と当時に紅茶を用意してくれた。

「あら、飲んでいたの?」

 マナに紅茶を淹れて貰ったことを内緒にしておくはずだったが、ついつい口を滑らせてしまう。反射的に口許を抑えるが、一度言葉に出してしまったモノを取り消すことはできない。黙っていたことによって母を悲しませてしまったと、エイルは思わず項垂れてしまう。

「ご、御免」

「いいのよ」

「いや、本当に……」

「でも、仲がいいのでしょう?」

「まあ」

「それなら、心配ないわ」

「どういう意味?」

「意味はないわ」

 とシーナは言うが、エイルは今の言葉に意味ないわけがないと考える。しかし母親相手に追及するのも気が引けるので、ここは黙っておくことにする。エイルは温くなってしまった紅茶を口に含むと、シーナにマナとの関係を知られてしまったと、渋い表情を浮かべた。
< 221 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop