ロスト・クロニクル~後編~

「今度、何処かへ連れて行ってあげるといいわ」

「誰を?」

「彼女を」

「マナ?」

「ええ」

「母さんが、言うのなら……」

 言葉ではそのように言っているが、内心ではマナと一緒に何処かへ行きたいと思っている。

 互いに、忙しい身。

 機会がないと、一緒に出掛けることはできない。

「リンダは?」

「私から、言っておくわ」

「それなら……」

 今すぐに出掛けたいのだろう、ディーカップを受け皿の上に置くと、スクっと立ち上がる。何ともわかり易い行動に、シーナはクスっと笑うと「もう、行ってしまうの?」と、声を掛ける。

 母親の指摘にエイルは身体を硬直させると、半笑いしながら笑顔を湛える母親を凝視する。

「早い方がいいかと……」

「落ち着きなさい」

「う、うん」

「まずは、リンダに連絡をしないといけないわ。勝手に連れ出してしまったら、怒られるでしょ」

「リンダは、怖いね」

 屋敷の主人の息子とはいえ、リンダはエイルに対して厳しく接する。通常では有り得ないことだが、フレイから「厳しくしていい」と言われているので、その言葉にリンダは忠実に従っている。そのようなことが関係し、いまだにエイルはリンダを苦手の対象であった。

「そういえば、マナって……」

「どうしたの?」

「実家って、どこ?」

「どうしたの、急に――」

 このことについて、エイルは以前から疑問に感じていた。マナは通いのメイドではなく、住み込みのメイド。別にそれはいいことなのだが、マナは一度として実家に帰ったことがないと聞く。その不自然な状況にエイルは、マナは帰る実家がないのではないか――と、考える。
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