ロスト・クロニクル~後編~
「まさか、マナって孤児?」
「それは……」
「マナは、何も言わないから。もし孤児だったら、僕としては……いや、マナには迷惑かもしれない」
「その優しさは、大切よ。だけど、無理に聞き出してはいけないわ。彼女の心も、考えないと……」
「……うん」
母親の言い方からわかるのは、マナが重大な秘密を抱えているということ。しかし言われた通り、興味本位で聞き出していいものではない。それに無理に聞いて泣き出してもしたら、それはそれで辛い。
エイルにとってマナは話し易く、贔屓(ひいき)――という言葉は弊害になってしまうが、気に入っている。
だから、彼女が話してくれる日を待つ。
と、選択する。
「さあ、行きましょうか」
「リンダ?」
「そうよ」
「怒らなければいいけど」
「大丈夫よ」
母親の言葉に、エイルは頷く。
エイルが直接リンダに頼むより、間に母親が入ってくれた方が上手くいく場合がある。その証拠に、特に問題なくマナと何処かへ行くことができた。リンダが了承してくれたことにエイルは喜びを全身で表しそうになってしまうが、寸前自分自身に言い聞かせ、行動を制する。
「ただ、夕方までにお戻り下さい」
「勿論」
「では、マナを呼んできます」
「いいよ。僕が行く」
そう言葉を残し、エイルは立ち去ってしまう。その素早い動きにリンダはエイルの名前を呼ぶが、もうその姿はなかった。
「エ、エイル様」
「もう、あの子ったら」
息子の行動にシーナは呆れ気味だが、だからといって怒っているわけではない。エイルは、マナの大事にしている。大事にしている人と一緒にいたいと思うのは、普通の考え。それを理解しているからこそ、シーナは息子の背中を押し、マナと共に出掛けることを許した。