ロスト・クロニクル~後編~
「ああ、マルガリータちゃん。君の尊い犠牲は、絶対に忘れない。いつかきっと君を再生して――」
「再生?」
彼が発する「再生」という危険な発言に、エイルはラルフがマルガリータの種を隠し持っているということに気付く。
エイルはラルフの目の前に手を差し出すと「隠し持っている種を差し出すように」と、脅す。最初は種を持っていないと否定していたラルフだがエイルの目を見た瞬間、一気に血の気が引く。
この目付きは間違いなく、メルダース在学中に何度も目撃している「黒エイル」そのもの。命の危機を感じ取ったラルフは、至る箇所に隠していたマルガリータの種を全て差し出す。
しかしラルフの性格を考えると全ての種を差し出したとは思えなかったらしく、エイルはラルフの全身をペタペタと触れ、本当にマルガリータの種を隠していないか確かめていく。
「本当だね」
「そう言ったじゃないか」
「お前の言葉が、信用できるか。特にマルガリータが絡むと、お前は平然と嘘を付くからな」
これも長く悪友関係を築いてきたからこそ、理解できるラルフの性格。全ての種を受け取ったエイルは、マルガリータが植わっている鉢と共に焼却処分を行おうとしたが、流石に場所が悪いと気付く。
今、彼等が立ち話をしているのは国境で、多くの人と物が行き来する場所。そのような場所にマルガリータの遺骸を埋めておくのは気分的に悪いので、埋める場所は滅多に人が訪れない場所がいい。
エイルはマルガリータの墓場に相応しい場所を探す為に周囲に視線を走らせるが、なかなか適当な場所が見付からない。だが、偶然にも隠すのにちょうどいい雑木林を発見することができた。これこそ女神エメリスの導きか――どうやら、女神もマルガリータを嫌っているらしい。
「あの場所に、灰を埋める」
「これで、本当にマルガリータちゃんとお別れになってしまうんだね。うううう、短い間有難う」
「別れは済んだか? 済んだのなら、焼却処分をする。全く、マルガリータを復活させやがって……こういうことは、二度とやるな! それに久し振りの魔法だから、手加減はしない」
「生まれ変わったら、綺麗な花を咲かせてね。そして、再び君に出会いたいって、うおおおおお!」