ロスト・クロニクル~後編~
感涙に浸っているラルフを待っている時間が惜しいのか、エイルは呪文を詠唱しさっさとマルガリータとその種を焼却してしまう。魔法によって生み出された炎がマルガリータを覆い、瞬く間のうちに炭へ変化させていく。そして炎が消えた時は、植わっていた鉢まで消滅していた。
これにより、エイルの頭痛の種であったマルガリータが完全に消滅する。同時に地上の平和が守られ、食虫植物によって人類滅亡――というより、全ての生物滅亡を阻止することができた。
ラルフは消し炭と化したマルガリータの目の前に目元に涙を浮かべていたが、マルガリータを燃やしたエイルは達成感に浸っていた。だが、これで全てが終わったわけではなく、メルダースでの復活騒ぎがあるので、炭となったマルガリータを地中深くに埋めないといけない。
しかし手ぶらの状態で灰を土の中に埋めることはできないので、エイルはアゼルにスコップを借りに行く。その間、残ったラルフは灰になってしまったマルガリータの前で泣くしかない。
ラルフとマルガリータの付き合い――という表現は適切ではないが、マルガリータに強い執着心を示していたラルフにとって永遠の別れは身を引き裂かれる思いがするが、思い出に浸っている暇はない。エイルが借りてきた二本のスコップのうち一本を使って、灰を土と共に拾い上げたからだ。
「行くぞ」
「ああ、本当にお別れだ」
「僕達は、好都合だよ」
彼が言う「僕達」というのは、マルガリータの異常なまでの繁殖力を知っている人物。特に今回の件をメルダースの学園長クリスティが聞いたら、エイルを絶賛し褒め称えているに違いない。
スコップの上に灰を乗せつつ雑木林へ向かうと、エイルは灰を乗せていたスコップを手渡す。そして自分はもう一本のスコップを使い地面に穴を掘っていくが、相手はマルガリータなので浅い穴では安心できない。何せ、踏み潰しても復活を果した過去を持っているのだから。
安心できると思われる深さの穴を掘るとその中に灰を投げ捨て、掘り起こした土で埋めていく。更に念には念を入れというかたちでスコップの裏で掘った穴を叩き、土を硬くしていった。
「終わり」
「これで、約束を守ってくれるね。約束があるからこそ、マルガリータちゃんをこのように……」
「勿論だよ。いくらお前でも、約束を破ることはしない。もし破ったら、後々が面倒だから」