ロスト・クロニクル~後編~
といってラルフが相手側に受け入れるかどうかは不明だが、彼の借金の状況を考えると何が何でも就職してくれないといけない。そして一番避けなければいけないのは、借金の踏み倒し。
クリスティ相手に踏み倒しという恐ろしい考えを起こさないだろうが、メルダースの校則を涼しい表情で平然と破るラルフなので、借金の踏み倒しは考えられる。それでは此方にとばっちりが来るので、金が稼げる職場でキリキリと働いて貰い返済に充てて貰わないといけない。
「しかし、すぐには可能でしょうか」
「どういう意味だ」
「確かにラルフはメルダースの出身者で、敵方ではないということはハッキリとしています。ですが、それだけで鉱山で働いている者達が受け入れてくれるかどうか……気の強い方々が多いと聞きます」
「私が、紹介書を書こう」
「宜しいのですか?」
「お前の学友というのもあるが、クリスティ殿への借金を踏み倒すわけにもいかないだろう」
父親の説明に、エイルは頷き返す。ラルフがエイルを頼って、就職先を探しに来た。それを無碍に扱った結果、借金を返済することができない。つまりクリスティにとってこれは借金の踏み倒しとなり、下手したらラルフの手伝いをしなかったエイルまで被害を受けてしまう。
第三者がこの話を聞いた場合「裏を読みすぎ」と言ってくるだろうが、相手はあの曲者のクリスティ。裏を読みすぎということはなく、寧ろ様々な方面で最悪の結末を考えなければ身を滅ぼす。現にクリスティ相手に空気が読めず、身を滅ぼした人物がいるという話を聞いたことがある。
それにやっとの思いでクリスティを味方に付けた今、彼女の機嫌を損ねるのは相当の痛手。そして彼女の機嫌を損ねないようにするには、ラルフにきっちり借金返済を手伝うことだ。
「何だか父さんに、色々と……本当に、すみません。僕のことだけではなく、あいつのことまで……」
「いや、構わない。相手はお前の学友であり、クリスティ殿に目を付けられている人物。手伝わないわけにもいかない」
「すみません」
「謝らなくていい。それより、あのような人物がお前の友人だったとは……その方が驚きだ。いや、その前にあのような人物がメルダースに在籍していたことの方が、驚愕というべきか。さぞかし、クリスティ殿や教師達の頭痛の種となっていただろう。よく卒業できたものだ」