ロスト・クロニクル~後編~
しかし「エイルの友人」というだけで優遇できるものではなく、現在のクローディアの内情を思えば職業の斡旋の他に暮す場所も用意してくれるだけ有難いと思わないといけない。
それに手助けするのにも限度というものが存在し、借金の返済主はメルダースの学園長クリスティ。彼女の性格を考えると、自力で稼いだ金ではなければ受け取ってくれないかもしれない。だから何が何でもラルフが働いて稼ぎ、借金の返済をしていかないといけない。
「憧れの貴族の生活が……」
「まだ言うか」
「だって、一生に一度体験できるかどうかわからない世界だし。それに憧れだって言ったじゃないか」
「お前が置かれている状況を真剣に考えれば、そんな暢気なことを言っていられないと思うが」
「なら、少しの間だけ体験したいな。で、紅茶のお代わりが欲しい。できれば熱い紅茶がいいな」
自分の家状態で寛いでいるラルフは、部屋の隅で待機しているメイドに紅茶と菓子を軽い口調で頼むが、エイルがラルフの言葉を遮る形で低音の言葉を発し、彼の言葉を無視していいと言う。
異なる命令が告げられたが、この場合主人の息子であるエイルの言葉を優先しないといけない。待機していたメイドはエイルに身体を向けると彼に恭しい態度で頭を垂れると、エイルの命令に従うという意思を示す。勿論、メイドの反応にラルフは納得しない様子だった。
「何で!?」
「お前は、この家の住人じゃない」
「でも、客人だよ」
「客人といっても、お前の場合は押し掛けじゃないか。仕事の斡旋と暮らす場所を用意するだけ、有難いと思わないと。それ以上、何を求めるというのかなラルフ君。我儘が過ぎるよ」
「まあ……うん」
正論を語るエイルに、ラルフは反論の言葉が見付からないのか急に大人しくなってしまう。それでも美味しい紅茶のお代わりが欲しいのだろう、空っぽのティーカップにチラチラと視線を送っていた。
我儘を許しては彼が付け上がるだろうが、エイルとラルフは長い付き合いの悪友同士なので、メルダース時代厳しい仕打ちをしていても、なんだかんだといって彼を裏切ることはしなかった。それに一方的な押し掛け状態でも彼を温かく受け入れ、生活できるように気配りする。