ロスト・クロニクル~後編~

 信じがたい光景の数々に、掃除に赴いたメイドの悲鳴が屋敷中に轟いたというのは言うまでもない。一方、身体を洗い清潔な姿を取り戻したラルフは、清々しい表情で飲み物を飲んでいた。

「エイル」

「何でしょうか」

「お前の友人は、遠慮という言葉を知らないのか。多くのメイド達が、苦情を言ってきたぞ」

「知っていましたら、学園長に怒られていません。それに、あれだけの借金ある奴ですから」

「確かにそうだな」

「ですので、すみません」

 当初「息子の学友で友人」ということで大目に見ていたが、やることなすことが常識外れ。これでは屋敷の中が荒らされ使用人に迷惑を掛けてしまうと危惧したフレイは、早く新しい就職先に行き借金返済の為に働いて欲しいと思う。無論、エイルも父親と同意見だった。


◇◆◇◆◇◆


 クリスティへの借金返済は、早い方がいい。というのは建前上の理由で、本当は平穏な生活を悉(ことごと)く破壊していくラルフを追い出したいフレイは、新しい就職先への紹介状をエイルに手渡すと無礼者を追い出す。

 滅多なことでは動じないことで有名なフレイが、青筋を立てているのは相当のもの。流石ラルフというべきか、別の意味で大物振りを発揮する。だが、それは褒められるものではない。

 ラルフの新しい就職先は約束通り水晶を発掘する鉱山で、その場所は万年雪が降り積もる高い山々の麓に存在し、近くには水晶を発掘する者やその家族が暮す〈ソノラ〉という名前の村がある。雰囲気は王都と天と地の差があったが、これはこれでのどかで過ごし易い村だ。

 ソノラ村に到着したエイル達が真っ先に行なったのは、村長への挨拶。何事も最初の挨拶が肝心というもので、特に以前の就職先をあのような形でクビになっているのでラルフは第一印象を良くしておかないといけない。何せこれから先、この場所で働かないといけないのだから。

 突然のエイル達の訪問にソノラ村の村長は警戒し、更に村の者達も村長の家の周囲に集まり出す。どうやら水晶の利権を狙いにやって来たのだと勘違いされたらしく、村長の目付きが悪い。しかしエイルの正体を聞き、尚且つフレイが書いた紹介状によって警戒を解く。
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