ロスト・クロニクル~後編~

 心遣いは有難いが、アルフレッドが浮かべている表情の裏側に隠されている何かをエイルは簡単に見抜く。その部分を指摘すると、やはりエイルの予想通り彼は隠し事をしていた。

 アルフレッドらしい言動にシンは呆れてしまったのか、利き手で顔を覆い頭を振る。一方エイルは嘆息と同時に、実家に帰るのなら一人で帰ればいい。だが、アルフレッドは一人で帰宅できない理由があった。それは彼が豪語している「剣で身を立てる」が関係していた。

「両親が信用しない」

「親衛隊に入隊したことを?」

「ああ」

「その服装で行けばいい」

「盗んだと勘違いされる」

 真剣な表情で「勘違いされる」言い放つ彼の言葉には、偽りは感じられない。また同時に、日頃の言動から両親に信用されていない理由を悟ったのか、エイルとシンは囁き合う。彼等の悪口に近い囁きを耳にしたアルフレッドは間髪いれずに反論を行うが、囁きは的を射ているので反論は無意味。

「エイルが一緒に行けば、両親に信頼されると。要は、彼に身元証明をしてもらいたいわけか」

「い、痛い部分を――」

 いつもの調子であったらエイルが毒を吐くが、今回はシンがアルフレッドに毒を吐く。シンからの身体を抉る攻撃に打ちのめされそうになるが何とか踏み止まり、エイルに縋り付く。

「で、シンが言ったことが正しいのか」

「お、おう」

「最初から、そう言えばいいじゃないか」

「言ったら、ついて来てくれたのか?」

「まあ、理由が理由だし……お前の両親も興味がないわけでもないから……いいんじゃないか」

 歯切れの悪い言い方であったが、エイルは行かないと言っているわけではない。自分に都合がいいように読み取ったアルフレッドは両手を天井に向かって突き上げると、シンも一緒に行かないかと誘うが、シンは首を縦に振ることはせず、牧場に興味はないと言い放つ。

 本当は三人で行きたかったが、それでも親衛隊の一員になったことを証明してくれると約束してくれたエイルが同行してくれるだけで十分だった。また、剣で身を立てられるようになったことを報告できることが嬉しいのだろう、アルフレッドは感動に打ち震えていた。
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