ロスト・クロニクル~後編~
それは昔からの付き合いがあり、弟のように見ているからというわけではない。リデルも公私を混同する人物ではないが、精神面が弱った部下をそのままにしておくほど非情ではない。
何かいい方法がないのかとシードに尋ねると、彼はアルフレッドとシンに任せたという。彼の言葉にリデルは、納得したかのように頷く。彼等は共に親衛隊に入隊した仲間というより、仲のいい友人関係に近い。また、真面目のシンがいるので彼女がエイルを何とかしてくれるとシードは話す。
「アルフレッドはいいのか?」
「あの者は……」
「シェラ様の前で、宣言した」
「これが、一時的なものでなければいいですが。彼は口だけの時もありますので、どうも……」
「信用していないな」
「性格が性格ですので」
リデルの言い方に、シードが苦笑する。確かにアルフレッドのがさつな態度を見ていれば、彼女の気持ちはわからなくもない。だからといって、シェラの御前で宣言した身。一国の女王を前にして嘘を付くほど愚かな人物ではないと、シードはアルフレッドを信頼する。
「彼等が、どのような方法を用いるかはわからない。だが、すぐに受け入れるだろう。彼は、フレイ様のご子息だ」
「それに、あのメルダースを卒業しています。クリスティ学園長に、相当鍛えられたそうで」
「リデルがアルフレッドのことを一時的と言ったが、彼の症状も一時的なものだろう。だから、信じる」
「……はい」
シードは彼等がどのような方法を用いてエイルを立ち直らせるかわからないが、数日は黙認して欲しいとリデルに頼む。ただ黙認できるのは数日で、それ以上は流石に黙認できない。
それでもエイルはメルダースの卒業者で、前隊長フレイの息子として隊の中で有名だ。シードやリデルが彼に対してあれこれと世話を焼いては、他の隊員に示しが付かない。だから数日経過しても彼が立ち直らなければ、その時は親衛隊を除隊してもらわないといけない。
しかし数日の猶予を与えている時点で、エイルを特別扱いしているのではないかとシードは思う。一部の人間を特別に思っている時点で自分は尊敬しているフレイに及ばないと反省するが、エイルはメルダースを優秀な成績で卒業している人物なので捨てるのは勿体無い。