ロスト・クロニクル~後編~

第三話 春風の中で


 気分転換に最高ということで、エイルはアルフレッドの誘いでは彼の実家の牧場へ向かった。夫婦二人で経営しているということでこじんまりとした牧場とエイルは予想していたが、想像以上の彼の実家の牧場の敷地面積は広大で、飼育されている家畜の種類と数が多い。

 広大な敷地面積ながら隅々まで手入れが行き届いており、美しい牧場と印象を受ける。実家の牧場に到着すると、アルフレッドが胸を張ってどのあたりが素晴らしいのか説明しだす。しかし経営しているのは彼の両親でアルフレッドではないので、いくら説明しても意味を成さない。

 いつもの容赦ない辛辣な返しにへこみそうになってしまうが、このような返事ができるのは元気が戻ってきている証拠といっていい。アルフレッドはそのように自分に言い聞かせエイルの毒攻撃に必死に耐え抜くと、次に案内するのは家畜が普段生活している小屋だった。

 のんびりと歩く牧場は牧歌的な雰囲気が漂い、時折響くのは動物達の間延びした鳴き声にエイルの気分は落ち着く。アルフレッドと他愛のない会話を交わしていると、ふと彼の両親の存在が引っ掛かる。実家の牧場というのだから何処で仕事をしているだろうが、いまだに誰ともすれ違わない。

「ところで、両親は?」

「多分、何処かに……」

「なら、あの人達か?」

「うん? ああ、そうだそうだ」

 エイルが指し示す方向で仕事を行なっていたのは四十代後半の男女で、アルフレッドの反応から彼等が両親というのは間違いない。するとアルフレッドの両親も息子の存在に気付いたのだろう、驚きの表情を浮かべつつ息子の名前を呼びながら此方に向かって歩いて来る。

「アルフレッド!」

「どうしたの、急に……」

「や、やあ」

「何しに、戻って来た」

「戻って来たって……俺は一生実家に戻っちゃ、いけないのか? 確かに、親父とお袋の反対を押し切って勝手に出て行ったが……だからって、そんな酷い言い方をすることは……」

「わかっていればいい。で、家を出て行く時に宣言していた「剣で身を立てる」というのは、どうなったんだ? まさか、できなかったのか。まったく、お前は昔からいい加減なところがあって……今回も、どうせ仕事が見付からないから帰って来たのだろう。お前はそういう奴だ」
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