ロスト・クロニクル~後編~
「聞かなかったじゃないか」
「聞かなくても言うものだ」
「そうよ。本当に、どうしましょう」
貴族のご子息相手に下手な物でおもてなしするわけにはいかないと、美味しいものがなかったのか思い出していく。だが、おもてなしに相応しい食べ物がなかなか思い付かない。正体を知り慌てだすアルフレッドの両親にエイルは、何もしなくていいと言うが相手側はそうはいかない。
息子の同僚と聞いていたが、その正体は貴族のご子息。平民との身分差は大きいので、急に恭しい態度に改める。その変化にエイルは苦笑すると、普通に接して欲しいと頼む。エイル自身、貴族の一員ということで態度を改められるのを嫌い、アルフレッドのように接してくれる方が嬉しい。
しかしアルフレッドと彼の両親の性格は、根本的な部分で異なっている。二人は厚顔無恥ではなく真面目そのものといっていいので、エイルの意見を簡単に受け入れることはできない。それどころか、おもてなしをするとエイルを生活に利用している建物の中に案内する。
「お、俺は?」
「勿論、一緒だ」
「いいのか?」
「どうして、そのように言う」
「いや、さっき……」
両親から冷たい仕打ちを受けたことを引き摺っているのか、両親に同行していいか尋ねた。他人行儀に近い余所余所しい態度に、そのようなことを聞かなくていいと怒り出す。変化が激しい両親の態度についていけないのかアルフレッドは、盛大な溜息の後ついていった。
「自家製のチーズです」
「此方は、自家製のヨーグルト」
エイルの目の前に並べられたのは、新鮮なミルクを使用して作られた乳製品の数々。そしてアルフレッドの目の前に置かれたのは、並々と注がれた一杯のミルクと丸ごとチーズ。これを全部食べないといけないのかと尋ねると、返された答えは「勿論」というものだった。
いくら大食漢のアルフレッドでも、チーズ丸ごとを食べられるわけがない。それにチーズ丸ごとを胃袋に納めれば、消化不良は間違いない。最悪、腹痛に悩まされ長い日数仕事を休まないといけなくなり、上司のシードとリデルに何を言われるかわかったものではない。