ロスト・クロニクル~後編~
用意された乳製品が多いことを母親に訴えるが、聞き入れてくれる様子はない。それどころか、昔から大食漢なのでこれくらい食べられるのではないかと、逆に言い返されてしまう。しかし無理なものは無理なので、チーズを半分だけ切って残りは両親の前に差し出す。
「食べないのか?」
「体調を整えるのも、親衛隊の勤めだ。もし体調を悪くしたら、仕事ができなくなってしまう」
「愚息が、立派な発言を……」
「あの子が……」
想像以上の成長っぷりに涙腺が刺激されたのか、彼の母親の目頭に熱いものが光る。まさか母親に泣かれるとは思わなかったアルフレッドは、珍しく動揺しだし泣かないで欲しいと訴える。滅多に見られないアルフレッドの姿にエイルは、口許を手で押さえながら笑い出す。
「いい両親じゃないか」
「そうか?」
「本当に相手のことを思っていなければ、普通は何も言わない。そう、メルダースで教えられた」
エイルの話に納得するところがあったのか、アルフレッドは腕を組み何度も頷く。すると、エイルが発した「メルダース」という単語に過敏に反応を示したのが、アルフレッドの両親。貴族のご子息だけでも驚きだというのに、更に最高峰の学びやと呼ばれるメルダースの卒業者。
普通に生活していれば、互いの人生が混じり合うことはない。だが、運命は時に偶然という名の出会いを作り、エイルとアルフレッドを引き合わす。これこそ、女神エメリスの導きというべきか。二人は息子の側に行くと、この縁を大事にしないといけないと注意する。
「なんで?」
「交友範囲は、広い方がいい」
「そうよ。持っている運の大半を使ってしまったのよ。だから、この縁を無駄にしてはいけないわ」
「そうだ。特にお前の場合は重要だ」
「今まで、このように一緒について来てくれる人物がいなかったでしょ? だから、大事にするのよ」
必死にエイルとの縁について熱く語る姿に、当初は「本当にアルフレッドの両親なのか?」と不思議に思っていたが、語る姿を見ているとやっぱりアルフレッドの両親だと確信する。それに、親子三人のやり取りは実に微笑ましいもので、エイルの表情も緩んでいく。