ロスト・クロニクル~後編~

 親子の会話を聞きつつ、エイルはチーズとヨーグルトを口にする。流石、新鮮なミルクを使用しているだけあって、ほのかな甘味が美味しい。特にヨーグルトが気に入ったのか、口に運ぶスプーンが止まらない。そして全てのチーズとヨーグルトを食べ終えても、三人の話は続いていた。

 両親の話に焦った表情を作るアルフレッドに対し、息子に力説し続けている彼の両親。剣で身を立てるということで連絡もせずに家を出た息子が、親衛隊の一員となって戻って来た。本音ではそれが嬉しいのだろう、アルフレッドは気付いていないが表情が緩んでいる。

 また、息子を思っているからこそついつい口煩くなってしまう。折角、親衛隊の一員になったのだから、何かの間違いで除隊しては堪らない。だから厳しい言葉を言い、親衛隊として活躍して欲しいと願う。これこそ親心というものだろうが、アルフレッドは理解していない。

「エ、エイル」

「何?」

「乳搾りや毛刈りは興味あるか?」

「別に」

「興味があると言ってくれ」

「何で?」

 両親の話から解放されたいアルフレッドは牧場生活を体験しないかと誘うが、エイルはそれらの体験に興味があるわけではないので断る。しかしアルフレッドはエイルが乗ってくれなければ解放されないことを知っているので必死に食いつき、最終的には強硬手段に出る。

 アルフレッドはエイルの腕を掴むと、強制的に建物の外へ連れ出す。突然の出来事に彼の両親は唖然となってしまうが、このような状況を慣れているのだろう互いの顔を見合し苦笑し合う。そしてテーブルの上に置かれていた食器類を片付け、自分達は仕事に戻って行った。




「経験は?」

「ない」

「メルダースで、学ばなかったのか?」

「そういうことを学ぶ場所じゃない」

 最高峰の学び舎と呼ばれていても、家畜の飼育方法を教えてくれるわけではない。エイルが乳搾りや毛刈りのやり方を知らないことに優越感を覚えたのか、アルフレッドの顔の筋肉が緩みだす。更に両手を腰に当てると、エイルに乳搾りや毛刈りのやり方を教えるのだった。
< 90 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop