戻りたい。戻れない。
彼にペアリングを買って貰ったあの日から、私は毎日ペアリングを身につけていた。
「えへへ…」
『なに一人で笑ってんだよ気色悪ぃな』
「き、気色悪いって酷いなあ…」
電話越しの彼の声にまた少し微笑む。
『なんだよ。なんか嬉しいことでも
あった?』
「んー?いやー、うん。幸せだなあって思って」
『今更?』
馬鹿じゃん、と笑う彼に、
馬鹿ですよーと返す私。
この時は本当に本当に幸せだった。
彼の心の中に見え隠れする影に、気付いていなかったから。