ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
母は、目を大きく見開いて焦っていた。


「大丈夫よ。もう支度出来たもの」

「あなたはそうでしょうけど、私はこんな恰好で……」

「お母さんは関係ないじゃない……」

「あら。関係あるでしょ? ご挨拶しなきゃいけないんだから……」

「そういうのはいいの。新藤さんはまみちゃんを連れて遊園地かどこかへ行くらしいの。私はそれにお付き合いするだけだから」

「だとしても、ご挨拶ぐらいは……」

「やめて。新藤さんはそんなつもりじゃないんだから、気を遣わせたらご迷惑だわ」

「そう? じゃあ、ご挨拶は今度という事ね?」

「うん、今度ね……」


と言ったものの、そんな事になるのかしら。私達……


「あ。お父さんは?」

「朝からコレよ」


母は、手を前に出して何かを持ち上げるような仕種をした。


「ああ、釣りね?」

「そう。暗い内に出掛けて行ったわよ……」


父は昔から無類の釣り好きだった。


「そう? よかった……」


もし父がいたら、きっと新藤さんに会わせろって聞かなかったと思う。そしてまみちゃんを見たら、何て言われた事か……

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