ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
しばらく遊んだ私達は、疲れたので一休みする事になった。手を洗ってベンチに腰掛けたところで、ふと私はある事を思い出した。

そこで私は新藤さんから車のキーをお借りして、後部座席に置いて来た紙袋を持って戻った。出掛けに、母からもらったマドレーヌだ。


「これ、自家製のマドレーヌなんです。よろしかったらいただきませんか?」

「おお、いいね。君が作ったのかい?」

「はい、と言いたいところですけど、母です」

「あはは。そうか」


本当に“はい”と言いたかったなあ。本気でお料理の勉強をしなくっちゃだわ。

飲み物は、ちょうど近くに自販機があったので、それぞれ思い思いの飲み物を買った。


「まみ、小さいお口で飲みなさい」


新藤さんはまみちゃんに瓶入りのオレンジジュースを買ってあげ、キャップを外すとそう言ってまみちゃんに手渡した。

“小さいお口”ってどういう意味だろう、と思って見ていたら、まみちゃんは「うん」と頷き、お口を尖らせて瓶の口に触れ、ジュースをゴクゴクっと飲み始めた。可愛い仕草だけど、特に変わったところはないような……


「最近、やっとこういう飲み方が出来るようになったんだ。前は下手でね、逆流したり、口の脇からこぼしたりでね、大変だった」

「そうなんですか……」

「ただ、缶ジュースはまだ苦手だな。ちゃんと口の向きを合わせて渡さないと、何も考えずに飲もうとするから大変だよ。脇からドバッとなる。あと、ブリックパックもね、どうしてもギュッと握るんで、ストローからピュッと飛び出したりして……」

「はあ……」

「ごめん。そんな事言っても君にはピンと来ないよね?」

「いえいえ、そんな事はないです」


確かにピンとは来ないけど、子育てって色々と大変なんだな、という事は解ったような気がする。

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