ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
まみちゃんを後部座席のチャイルドシートに座らせ、私はぐるっと回ってまた後部座席に乗ろうとしたのだけど、


「前に座ってくれないかな?」


と新藤さんから言われた。


「まみは当分ぐっすり眠るはずだから、少し僕と話をしてくれないかな?」


と言われ、もちろん私に異論などあるわけもなく、「はい」と言って助手席に乗った。


「あの……」


私は、新藤さんが運転席に乗り込み、車のエンジンを駆けたところで声を掛けた。新藤さんも話したい事があるみたいだけど、私にもあった。しかも、早く言わないといけない事が。言いにくい事ではあるのだけど……


「ん?」

「帰るんですよね? つまり、私を送ってくださるんですよね?」

「うん。そのつもりだけど?」

「私は、その……」

「ん?」


ああ、何て言おう。素直に、“まだ帰りたくない”って言おうかなあ。とも思ったのだけど、


「今日は何も予定がないんです」


と、遠回しに言ってみた。


「あ、そうなんだ……」

「なので……早く帰ってもする事がありません」


言っちゃった……。遠回しではあるけど、帰りたくないと言ったも同然だと思う。大胆にも。

私は俯いて、新藤さんの言葉を待った。

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