ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
リビングに戻り、まだ映画は終わっていなかったけれど、それを停止してまみちゃんが好きなアニメのDVDと差し替えてもらうよう、私は新藤さんにお願いをした。


「いいのかい?」

「はい。何度も観ましたから……」


という事もあるけど、まみちゃんの気を逸らしたいというのが本当の狙い。口止めはしたものの、安心は出来ないと思うから。


「さてと、僕はちょっと行って昼食を仕入れて来るよ。ハンバーガーとかでいいかな?」


アニメの再生が始まると、新藤さんは髪を手で撫でながらそう言った。

“お昼は私が何か作りますよ?”と言いたいところだけど、お料理が苦手な私には無理なわけで、情けない気持ちで私は「はい」と答え、でもまみちゃんは嬉しそうに「うん!」と答えた。


「じゃ」と言って行こうとする新藤さんの顔を見て、私はある事に気付いてしまった。


「し、新藤さん!」

「ん?」

「えっと、あの……」


ああ、どうしよう。新藤さんの唇に私の赤い口紅が着いているのだけど、それをどう伝えていいか分からない。


「何かな?」

「はい。それが……」


私は、新藤さんの口元を見ながら困惑してしまった。正直に言うしかないのかな。でも、恥ずかしすぎる……


「……ああ。顔を洗って行くから大丈夫だよ?」

「あ、はい……」


新藤さんはクスッと笑い、部屋を出て行った。


ああ、よかった。わかってくれて……って、えーっ?
やっぱりバレてたのね……

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