ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
「新藤さん……?」


堪り兼ねて声を掛けたら、ようやく新藤さんは口を開いた。


「昨日の内に言ってくれれば良かったのに……」

「えっ? あ、もう夕飯の献立は決まってるんですか? あるいは外食とか……」

「いや、そうじゃないんだ。実はね……」

「はい?」

「今週から美沙さんが来てくれるようになってね」


はっ! また美沙さん?


「まみのお迎えと、夕飯の支度をしてくれてるんだ。僕は遠慮したかったんだけどね」

「毎日ですか?」

「ああ」

「あの人って、お仕事はされてないんですか?」

「してない」


それはそうよね。普通に勤めていたら、そんなの無理だ。私のように……


「明日とか、あるいは来週でどうだろうか?」


新藤さんはそう言ってくれたけど、私は首を横に振った。だって、今やしっかりそれをしてくれる人がいるのに、私がわざわざ行くのは不自然だから。まして美沙さんは、お料理が上手そうだし。少なくても私よりは。


あ、そうか。だから新藤さんは定時になっても急いで帰らなくなったのね。どうしてもの時は残業も出来るのか……


「今の話はなかった事にしてください」

「そう言わずに、今度……」

「いいえ、もういいんです。それよりも新藤さん、良かったですね?」

「え? まあね……」


私は無理に愛想笑いを顔に浮かべた。心の中では、残念な気持ちと悔しさで一杯だったけど。新藤さんが浮かない顔をしていたのが、せめてもの救い、かな。

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