ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
そんなわけで、私は予定に反して寂しい週末を迎えた。

母がまたお料理を教えてくれたのだけど、今回は私の気持ちが入らなかったのは仕方ないと思う。だって、せっかく覚えてもそれを発揮する機会がないのだから。少なくても当面は……


新藤さんに関し、もう私には打つ手がないと思い、すっかり気落ちしていた翌週の事。信じられない事が起きた。それはもう、正に晴天の霹靂と言うべきだと思う。


「楠君、ちょっといいかな?」


もうすぐ定時になろうかという時刻、受注データをパソコンで打ち込んでいたら、後ろから新藤さんに声を掛けられた。


「あ、はい。ちょっとお待ちください」


私は急いで入力を終え、送信ボタンをクリックして立ち上がった。


「廊下で話そうか?」

「あ、はい」


廊下に出ると、新藤さんは近くに誰もいない事を目で確認してから、


「今夜、予定はあるのかな?」


と言った。


「…………ありません!」


私は一瞬の間を開けてしまったものの、はっきりとそうお答えした。

一瞬の間が開いたのは仕方ないと思う。だって、まさか新藤さんからお誘いがあるなんて、夢にも思ってなかったのだから……

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