ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
「いいんですか?」


思わずそう聞くと、


「いいさ。たまの嘘のひとつやふたつ……」


口を尖らせ気味にして新藤さんは言った。その顔は、まるで拗ねた男の子みたいで可愛くて、私は、新藤さんの意外な一面を垣間見た気がした。


「僕だってたまには息抜きしたいし、それに……」


と言ったところで新藤さんは言葉を切り、漆黒の瞳で私をじーっと見つめた。その目が、『君と居たいんだ』と言っていると感じたのは、都合の良い私の思い違いだろうか……


私は、新藤さんの心を読むのに夢中で言葉を発しなかった。それが誤解されたのか、新藤さんはムッとした顔になり、目を逸らして、


「一人で酒を飲んでもいいんだけどね」


と、呟くように言った。本当に、拗ねた子どもみたいだ。


「私、お付き合いしますよ?」

「無理しなくていいよ」

「無理じゃありません。ぜひ、付き合わさせてください」

「そうかい? じゃあ、そういう事で……」

「はい!」


新藤さんは照れた様子でフッと微笑み、私も頬が緩むのだった。


急遽、新藤さんとデートする事になり、私はとても嬉しかった。でも、ちょっと嫌だなあと思う一面もあった。

それは、何か悪い事をしているような後ろめたさが私の中にある事。美沙さんに嘘をついているのだから、実際に悪い事には違いないのだけど、それだけではなく、そう、まるで不倫をしているような感じ。


もちろん私達は不倫でも何でもないのだけど、そう感じてしまう今の状況が、私はとても嫌だった。

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