ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
「ちょっと、竹宮さん!」


そんなあからさまに見たら、美沙さんが変に思うんじゃ……と思ったら、なぜか美沙さんは竹宮さんに向かい、ニッという感じで笑った。


そして竹宮さんは前に向き直り、


「やっぱりか……」


と言った。


「何がやっぱりなんですか?」

「ん……ここを出ようか?」

「え? でも、まだ目的が……」

「いや、もう済んだよ。それとも、食べてから行くかい?」

「いいえ、それはいいんですけど……」

「僕もさ。じゃあ、ここを出よう?」

「あ、はい……」


私達は、食事の殆どを残したまま席を立った。お店の人には悪いけど、食欲はすっかりどこかへ行ってしまっていた。


それにしても、竹宮さんの目的が済んだってどういう事だろう。“鈴木”と名乗って彼の会社へ電話して来る女性の正体を確かめるのが、彼の目的ではなかったの?

それが済んだという事は……えっ?

お勘定を済ませ、レストランを出たところで私はようやく気が付いた。


「た、竹宮さん。もしかして、電話の女性は美沙さんなんですか?」

「美沙さんって、今の女性?」

「はい、そうです」

「彼女さ」

「嘘!?」

「いや、まず間違いないと思うよ」


そんな……。美沙さんが偽名を使って竹宮さんの会社に電話を?

どうして? 何が目的なの?
第一、なんで美沙さんが竹宮さんの事を知っているの?


「信じられない……」

「どこかでお茶でも飲みながら話そうよ?」

「は、はい……」


私の頭の中は、疑問符で一杯だった。

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