ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
暮れも押し迫り、今日は仕事納め。

午前はこちらから代理店や大手のクライアントへご挨拶周りをし、帰社してからの午後は、逆に関係会社からの訪問を受け、目が回るほど忙しい。毎年の事ではあるけども。


そして、夕方からは社内の会議室で打ち上げがある。要するに飲み会。そろそろそちらへ移動しようかという時、新藤さんへ外線電話が入った。


「新藤です。……えっ? ……はい、分かりました。すぐ迎えに行きます」


受話器を置くと、新藤さんは難しい顔をして側にいた私を見た。


「何かあったんですか?」

「うん。麻生さんからの電話で、まみが具合悪いらしい」

「まあ! 熱が出たとかですか?」

「分からない。とにかく僕は退社してまみを迎えに行くよ」


そう話しながらも、新藤さんは素早く机の上を整理していた。


「あの、美沙さんは……?」


このところは美沙さんがお迎えをしているはずで、今日も彼女が行くのが自然だと思ったのだけど……


「それがね、麻生さんが言うには僕に来てほしいそうなんだ。いや、正確には僕か君に、と言ってた」


わ、私? 私でもいいんだ?

それを聞いたら、私の取るべき行動はひとつだと思った。


「新藤さん、私が行きます」

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