ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
「ああ、ごめん。僕は役職で呼ばれる事に慣れてなくてね。気付かなかったよ」


うーん。少し低めな声も素敵だわ……


「そうですか? では、“新藤さん”とお呼びしてよいですか?」

「そうしてくれた方がいいね。えっと……」

「楠です。楠莉那です」

「おお、君が楠君か……」


あら。新藤さんは私の名前を知っていたのかしら?


「もしかして、私の事をご存知でしたか?」

「うん、資料を見たんでね。営業成績がずっとトップだよね?」

「その事でしたか。トップと言っても、たかが知れてますわ」

「それはまあ……そうかな」


ガーン。私は謙遜で言ったのに、否定してくれなかった。もっとも、実際に大した売上げじゃないんだけどね。言ってみれば“ドングリの背比べ”みたいなもので。


「ところで、僕に何か?」

「あ、はい。お昼はご予定ありますか?」

「特にはないけど?」

「そうですか。よろしかったら、一緒に行きませんか?」

「ああ、そうだね……。いいですよ。行きましょう」

「ありがとうございます」


やった! まずは第一段階クリアってところね。

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