ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
「お掛けになって? 今お茶をお出ししますから」

「あ、いいえ、結構です」

「そう言わずに……」

「本当に結構ですから」

「そうですか?」


私はコートを脱ぎ、ローテーブルを挟んで麻生さんの向かいに座った。お茶をご遠慮したのは、もちろんまみちゃんの話を一刻も早く聞きたかったから。それなのに麻生さんはのんびりしているようで、私は正直、ちょっとイライラした。


「あの、まみちゃんはどんな様子なんですか?」


座るとすぐに、私はそう聞いてみた。


「癇癪を起こしたのよ?」

「癇癪、ですか……」


癇癪は、確か育児書に書いてあったと思う。えっと……そうそう、幼児が2歳頃からする行動で、大声を出したり地団駄を踏んだり、親でも手に負えないような突発的な行動だったと思う。

でも、それにはちゃんと意味があって、意思表示がまだ苦手な幼児の、精一杯の意思表示なのだから、特に心配したり叱るべきではなく、むしろ子どもと意思の疎通をはかる良い機会、みたいな事が書いてあったと思う。


そして私は思ったんだ。まみちゃんはどうなんだろうって。あの子が癇癪を起こしたのは見たことないし、イメージすら出来ないな、と……


「あの……癇癪でしたら、あまり心配する必要は……」


私は遠慮がちにそう言った。麻生さんのような育児のプロの方に、私なんかが意見するのは失礼だから。ところが、


「そうね。癇癪自体は何も心配してないの。問題なのはね……

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