ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
「美沙さん、あなたはいったい……」

「ん? この女を刺すのよ」

「ひゃっ」

「その後は、まみもね」


そう言って、美沙さんは包丁の切っ先を私に向け、ジリジリと近付いて来た。顔に不気味な薄笑いを浮かべながら。


「やめろ!」


すぐに新藤さんが私の前に立ち塞がってくれた。それで私からは美沙さんが見えなくなったけど、彼女は本気なんだろうか。本気で私を刺し、その後でまみちゃんを……?

私だけならまだしも、まだ幼く、何の罪もないまみちゃんまでも傷付けるの?
ましてや自分の血を分けた姪なのに?

そんな恐ろしい事が出来るなんて、私には到底信じられる事ではなかった。


「美沙さん、落ち着いてください。あなたは今、気が動転してるんです。冷静になってください」

「お生憎ね。私は至って冷静だわ」

「そんなはずない。あなたはずっと苦しんでたと思う。お姉さんの由梨が死んでしまってから。あなたは恨みと同情、あるいは責任感とか、それらの葛藤で悩んでいた。違いますか?」

「恨みね……。そうね、私はずっと恨んでたわ」

「それは当然だと思います。しかし、まみには何の罪もない。楠君も無関係だ。恨むのは、僕だけでいいはずだ。由梨を死に追いやったのは、この僕なのだから……」


新藤さんは、美沙さんの怒りを自分に向けようとしていた。それこそ、身を挺して。ところが……


「ククククク……」


たぶん美沙さんだと思うけど、不気味な笑い声が聞こえてきた。

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