ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
由梨の墓参りを終え、境内の道を三人並んでゆっくりと歩いている。
「莉那、赤ん坊が男だって事、何で黙ってたんだよ?」
「あら。だってあなた、赤ちゃんの性別は知らない方がいいって言ってたでしょ? 生まれるまでの楽しみに取っておくんだって……」
「そうだっけ?」
「そうよ」
「でもさ、それは医者が教えない主義だと思って言っただけで、教えてもらったのなら言ってほしかったよ。なあ、真美?」
「あたしは知ってたよ?」
「なにーっ!? おまえら、二人して俺を仲間外れにしたのか?」
『あはは』
「あはは、じゃない! もう怒った。今日は豪華に外食の予定だったが、帰る!」
「ちょ、あなた……。それは勘弁して?」
「ダメだ。おまえは飯を作れ」
「そんなあ。豪華ディナーと私の手料理じゃ、落差が激し過ぎでしょ?」
「そんな事ないよ。あたし、ママのお料理好き」
「あら」
「俺も嫌いじゃないな」
「あらあら。二人とも嬉しい事を言ってくれるわね。だったら、腕を奮っちゃおうかしら。何を作ろうかなあ……」
『ビーフシチュー!』
「あらま。二人して声を揃えちゃって……。頑張って、もう少しレパートリーを増やさないといけないわね」
「いや、そんなに頑張らなくていい」
「え? どうして?」
「どうしてもだ」
莉那は頑張り屋だから、“頑張るな”と言うぐらいでちょうどいいんだ。
俺は今のままの莉那が好きだ。有りのままの彼女が。そんな事、恥ずかしくて口に出しては言えないが。
「もう、急に黙っちゃって……。あなたって、昔から無口よね? 特に肝心な事は、ちっとも言ってくれないんだから……」
「そうかなあ」
「あたしね、最近はパパの心が読めるんだ……」
「なに?」
「ほんとなの、真美ちゃん?」
「うん。今ね、パパはこう思ったんだよ。"俺は、有りのままの莉那が好きだ”」
「えっ? まさか、それはないでしょ。ねえ?」
「い、いや……真美、おまえ凄いな!」
「きゃーっ、本当なの? 嬉しい!」
「お、おい、人が見てるから……」
おしまい。
最後までのお付き合い、誠にありがとうございました。
2014.6.16 秋風月
「莉那、赤ん坊が男だって事、何で黙ってたんだよ?」
「あら。だってあなた、赤ちゃんの性別は知らない方がいいって言ってたでしょ? 生まれるまでの楽しみに取っておくんだって……」
「そうだっけ?」
「そうよ」
「でもさ、それは医者が教えない主義だと思って言っただけで、教えてもらったのなら言ってほしかったよ。なあ、真美?」
「あたしは知ってたよ?」
「なにーっ!? おまえら、二人して俺を仲間外れにしたのか?」
『あはは』
「あはは、じゃない! もう怒った。今日は豪華に外食の予定だったが、帰る!」
「ちょ、あなた……。それは勘弁して?」
「ダメだ。おまえは飯を作れ」
「そんなあ。豪華ディナーと私の手料理じゃ、落差が激し過ぎでしょ?」
「そんな事ないよ。あたし、ママのお料理好き」
「あら」
「俺も嫌いじゃないな」
「あらあら。二人とも嬉しい事を言ってくれるわね。だったら、腕を奮っちゃおうかしら。何を作ろうかなあ……」
『ビーフシチュー!』
「あらま。二人して声を揃えちゃって……。頑張って、もう少しレパートリーを増やさないといけないわね」
「いや、そんなに頑張らなくていい」
「え? どうして?」
「どうしてもだ」
莉那は頑張り屋だから、“頑張るな”と言うぐらいでちょうどいいんだ。
俺は今のままの莉那が好きだ。有りのままの彼女が。そんな事、恥ずかしくて口に出しては言えないが。
「もう、急に黙っちゃって……。あなたって、昔から無口よね? 特に肝心な事は、ちっとも言ってくれないんだから……」
「そうかなあ」
「あたしね、最近はパパの心が読めるんだ……」
「なに?」
「ほんとなの、真美ちゃん?」
「うん。今ね、パパはこう思ったんだよ。"俺は、有りのままの莉那が好きだ”」
「えっ? まさか、それはないでしょ。ねえ?」
「い、いや……真美、おまえ凄いな!」
「きゃーっ、本当なの? 嬉しい!」
「お、おい、人が見てるから……」
おしまい。
最後までのお付き合い、誠にありがとうございました。
2014.6.16 秋風月