ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
「それを言ってくれないと答えられないな」


私がどうしようか迷っていたら、新藤さんはそんな事を言った。だったら、言うしかないよね?


「わかりました。言います。つまり、新藤さんは私達を早く帰して、その分時間外手当をカットするおつもりなのかと……。と言っても、私個人はそんな事は思ってないんですけどね」

「時間外のカット、ですか?」


新藤さんは不思議そうな顔でそう言った。という事は、やっぱりそういう事は考えてなかったらしい。もう、佐藤さんったら……


「やっぱり違いますよね? ああ、よかった……」


と、私はホッとしたのだけど……


「まったく考えてなかったよ。でも、人件費の削減にはなるね?」

「えっ?」

「悪くない考えかもしれない」

「ちょ、ちょっと、新藤さん……」


と私が慌てた時、ウェイトレスさんが料理を運んで来た。


「新藤さん、今の事は忘れてください」


ウェイトレスさんが行くと、すぐに私はそう言ったのだけど、


「おお、美味そうだね。いただこうか?」

「新藤さん……?」


新藤さんはニヤッと笑い、ゆっくりとステーキを切り始めた。その笑顔はとても素敵なのだけど、やきもきする私をからかっているのは明らかで、ちょっと悔しい。ああ、やっぱり言わなければよかった。まるっきりの“やぶ蛇”だったわ……

< 20 / 197 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop