ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
「そ、そうですよね? 仕事とプライベートのバランスを取る事は大事ですよね? 私もそう思います。新藤さんは、それを自ら実践されてるんですね?」

「…………」


私は、叱られた子どもが親の機嫌を取るかのように、笑顔を作ってそう言ったのだけど、新藤さんは無言で、やはり憂いのある目で私を見つめるばかり。


「可愛い奥様やお子さんが家でお待ちなんですか?」


更に勢いでそう訊いてみた。何でもない事のように、でも内心ではドキドキしながら。


「妻は……いない」

「えー? 新藤さんってまだ独身なんですか? 私はてっきり結婚してると思ってました。意外ですね?」


思わずはしゃいだ声で私が言うと、新藤さんは無言で下を向き、ナイフとフォークを動かし始めたので、私もシュンとしてそれにならった。ちょっとお喋りが過ぎちゃったかな。でも、新藤さんが独身でよかったわ……



その時の私は、新藤さんが独身だと知って有頂天になり、気付かなかったのだと思う。「妻はいない」と言った時の新藤さんは、悲痛な顔をしていたはずなのに……

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