ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
奥さんがどうして亡くなったのかはもちろん知る由もないけど、まだ幼いまみちゃんや愛するご主人の新藤さんを残して逝くのは、どんなに心残りだったろうか……。それを思ったら、つい目から涙が溢れてしまった。


「さあ、どれか服を選んでくれ。おそらくサイズは合うと思うから」


新藤さんの言葉に、涙を指で拭って振り向けば、扉が開いた収納の中に、透明なビニールが掛かった色取り取りの洋服がビッシリと並んでいた。

それを私が茫然と見つめていると、


「死んだ人間の服は嫌かな?」


と言われた。もちろん私にはそんな気持ちはないのだけど……


「そんな事はありません。むしろ、私なんかが着ていいんでしょうか? 大事な遺品なのに……」

「いや、いいんだ。どうせいずれ処分するつもりだから」

「でも……」

「ん?」

「それを着させていただいた私を見て、新藤さんやまみちゃんが奥様を思い出してお辛いのではないかと……」

「ん……まみはたぶん憶えてないと思う。小さかったから。僕は殆どの洋服に見覚えがないんで大丈夫だ」

「えっ?」


それって、どういう事なんだろう。


「悪いけど時間がないんだ。えっと……」


と言って新藤さんは腕時計に目をやった。


「あと10分で家を出ないと!」

「わ、わかりました」

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