ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
「お待たせしました!」

「おお、行こうか?」

「はい」


玄関の大きな扉から外に出ると、清々しいけども空気はちょっと冷たかった。


「今朝は少しばかり冷えてるね?」

「そうですね」


季節は確実に冬に近付いているようだ。

白い門まで数メートル。右側には花壇があり、あまり手入れはされていないみたいだけど、いくつか草花が植えられている。左手はガレージになっていて、薄く埃を被った紺色のセダンが停まっている。たぶん新藤さんの車なのだろう。


新藤さんはドアに鍵を掛けた後、まみちゃんを片手でひょいと抱き上げた。なぜ片手でかと言うと、左手には黒い手提げ鞄を持っているからだ。


「私が鞄をお持ちします」

「いや、大丈夫だから」

「いえいえ、ご遠慮なさらずに……」

「そうかい? じゃあ、悪いけど……」


私は新藤さんから手提げの鞄を受け取った。思ったよりも軽い。


「本当はショルダーバッグにすべきなんだけど、僕はどうも好きになれなくてね。恰好なんか気にしてる場合じゃないのだが」

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