ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
しばらく歩くと、交差点の角で新藤さんは立ち止まった。そして、


「この先を右に曲がると駅だから」


と言って私から鞄を受け取ろうとした。


「あの、新藤さんは……?」

「まみを預けに行く」


ああ、なるほど。まみちゃんを保育所かどこかへ預けるわけね。


「私も行きますよ。いけませんか?」

「いや、構わないけどね」

「じゃあ行きましょう」


こんな所で新藤さんと別れるわけには行かない。彼には聞きたい事が色々あるし……


私達は交差点の角を曲がり、細い路地を歩いて行き、見たところ普通の一軒家に着いた。そして新藤さんが呼び鈴を押すと、まもなくして扉が開いた。


「おはようございます」


中から現れたのは50歳前後と思われる女性だった。


「おはようございまちゅ」


すかさずまみちゃんは舌足らずながらもご挨拶をし、その女性も笑顔で「まみちゃん、おはよう」と返した。見るからに優しそうな女性だなと私は思った。


「えっと……」


その女性は私の存在に気付いて怪訝な顔をし、「こちらは、その……」と新藤さんが言い淀んでいると、


「りなちゃんでちゅ」


と、まみちゃんが言ってくれた。もっとも、その女性が知りたいのは私の名前ではなく、新藤さんとの関係だろうけども。

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